日の光がさんさんと降り注ぐ、いつもと変わらない昼下がり。公園のベンチでのんびりと過ごす犬のわんぽんは、ちょろりと舌を出し、ただただ虚空を見つめていた。その視線の先には、特に何か面白いものがあるわけでもない。春の柔らかな日差しが心地よく、まどろみに身を任せているかのようだ。
わんぽんのすぐ後ろ、ほんの数メートルの上空を、銀色に輝く小さな物体が音もなく横切っていった。それは、まるで子供が描いた絵に出てくるような、典型的なUFOの形をしていた。ゆっくりと、しかし確実に、わんぽんの頭上を通り過ぎ、やがて公園の木々の向こうへと消えていく。
しかし、我らがわんぽんは、そんな天変地異とも言える出来事には全く気づいていない。彼の関心は、おそらく次に飼い主が投げてくれるボールか、夕飯のドッグフードのことだろう。
あるいは、何も考えていないのかもしれない。ただ、ぼーっとしているだけ。
私たち人間も、案外わんぽんと変わらないのかもしれない。日々の忙しさにかまけて、すぐそばで起きているかもしれない小さな奇跡や、あるいは大きな変化の兆しを見逃しているのではないだろうか。スマホの画面に夢中になるあまり、空の色が変わったことにも、隣の席の人が髪を切ったことにも気づかない。
日常というフィルターは、時として私たちの目を曇らせる。あまりにも「ありえない」出来事は、たとえ目の前で起こっていても、認識の外へと追いやられてしまうのかもしれない。わんぽんにとってのUFOのように。それでも、世界は私たちの知らないところで、常に面白おかしく、そして少し不思議に回り続けているのだろう。そんなことを考えながら、今日も私たちは、それぞれの日常をぼーっと過ごしていく。