音楽の世界には、聴く者の予想を遥かに超え、既存の概念を木っ端微塵に打ち砕くような、文字通りの「衝撃作」が生まれることがあります。今回ご紹介するのは、そんな衝撃作の中でも特に異彩を放つ一枚。メタルコア/マスコアというジャンルにおいて、その後のシーンに決定的な影響を与えた伝説的なアルバムです。
それが、**The Dillinger Escape Plan(ディリンジャー・エスケイプ・プラン)が1999年にリリースしたデビューアルバム、『Calculating Infinity』(カルキュレイティング・インフィニティ)です。
このアルバムは、多くのリスナーやミュージシャンから「世界一カオスで演奏するのが難しい」「人間の限界を超えている」などと評されるほど。一体なぜ、このアルバムはそこまで狂気じみているのでしょうか? その理由を探ってみましょう。
『Calculating Infinity』を初めて聴いた人は、まずその圧倒的な情報量と予測不可能な展開に呆然とするかもしれません。一般的な楽曲構成やメロディーといった概念は通用せず、まるで音の断片がランダムに投げつけられるかのような感覚に陥ります。
このアルバムが「カオス」と評される主な理由は以下の通りです。
目まぐるしい変拍子の嵐: ザッパの「The Black Page」も変拍子の連続で難解でしたが、彼らの場合はそれがバンドアンサンブル全体で、しかも恐るべき速度と頻度で切り替わります。4/4、3/4、5/8、7/8…といった拍子はもちろん、さらに複雑な分数拍子が当たり前のように飛び出し、曲の流れを予測することを不可能にしています。
ノンストップのテンポ変化: 曲の途中で、超高速から急に遅くなったり、またすぐに加速したりと、テンポがめまぐるしく変動します。この急激な変化についていくには、演奏者には驚異的な技術と集中力、リスナーには耳の慣れが必要です。
耳を劈く不協和音とノイズ: 意図的に不協和音や耳障りなノイズが多用されています。美しい響きや心地よさとは対極にある、緊張感と不安感を煽る音使いが特徴です。
突然のストップ&ゴー: 勢いよく演奏しているかと思えば、突然全ての楽器が停止し、一瞬の静寂が訪れる。そして次の瞬間にはまた違うリズムやフレーズで爆発する…この予測不能な展開が、リスナーを飽きさせない(あるいは疲弊させる)要因となっています。
このアルバムに収録されている楽曲を演奏するには、各パートに人間の限界とも思えるほどの超絶技巧が要求されます。
ドラム: 複雑怪奇なリズムパターン、異常な手数足数、正確無比なフィルイン。ドラマーはまるで機械のように正確でありながら、圧倒的なパワーとスタミナを必要とします。
ギター&ベース: 変拍子やテンポチェンジに合わせて正確かつ高速でリフを刻むだけでなく、複雑なコード進行や単音でのフレーズ、ノイズギターなど、常に指板上を高速で動き回る技術が求められます。
ヴォーカル: 叫び、唸り、怒涛のように吐き出される言葉の洪水。そのパフォーマンスは肉体的にも精神的にも極限状態と言えるでしょう。
バンド全体が、この複雑な譜面(彼らの場合は譜面があるのかすら定かではありませんが)を正確に、かつ凄まじいエネルギーをもって再現している様は、まさに驚異的です。特にライブでの演奏は、その破壊的なエネルギーと精緻な演奏が融合した、伝説的なパフォーマンスとして語り継がれています。
『Calculating Infinity』は、万人受けする音楽ではありません。むしろ、その極端さゆえに「受け付けない」という人も多いでしょう。しかし、この混沌の中から秩序を見出したり、その圧倒的な技術とエネルギーに魅力を感じたりするリスナーにとっては、唯一無二の、そして繰り返し聴かずにはいられなくなる「狂気の傑作」です。
それはまるで、複雑すぎるパズルや、危険だが魅力的なアトラクションのよう。安易な心地よさを排除し、リスナーに能動的に向き合うことを要求する、挑戦的な音楽なのです。
このアルバムがリリースされた1999年当時、これほどまでに複雑で暴力的なサウンドでありながら、高度な演奏技術に裏打ちされたバンドは稀でした。『Calculating Infinity』は、その後のメタルコア、特に「マスコア」と呼ばれるジャンルの方向性を決定づけ、多くの後続バンドに影響を与えました。
演奏技術とアグレッション、そして既存の形式からの逸脱。彼らはこのアルバムで、ヘヴィミュージックの可能性を大きく押し広げたのです。
The Dillinger Escape Planの『Calculating Infinity』は、まさに「世界一カオスで演奏が難しい」と称されるにふさわしい、規格外のアルバムです。楽譜が真っ黒に見えるほどの複雑さ、人間の限界を超えたかのような演奏。それは単なる「うるさい音楽」ではなく、計算し尽くされた狂気であり、圧倒的な技術の結晶です。
もしあなたが刺激的な音楽体験を求めているなら、ぜひこの『Calculating Infinity』に挑戦してみてください。最初は戸惑うかもしれませんが、このアルバムが持つ唯一無二の魅力、そして彼らが音楽史に残した衝撃の大きさを、きっと体感できるはずです。
彼らが切り開いた「混沌と技術」の世界は、今も多くの音楽ファンに語り継がれています。
THE DILLINGER ESCAPE PLAN – ‘Calculating Infinity’ (Full Album Stream) / RelapseRecords
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